JBA協会ブログ

2026年05月19日

令和8年度 柔道整復療養費改定の全容とこれからの接骨院・整骨院経営

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令和8年度 柔道整復療養費改定の全容

これからの接骨院・整骨院経営
~制度の「適正化・透明化」の本質と、柔道整復師に求められる納得のいく説明~

全国の接骨院・整骨院の現場で、日々患者様と真摯に向き合われている柔道整復師の皆様、本当にお疲れ様です。
現在、厚生労働省の専門部会において、令和8年度(2026年度)の柔道整復療養費改定に向けた具体的な議論が進められています。近年の改定内容を注意深く読み解くと、今回の改定は単なる点数のプラス・マイナスという表面的な話にとどまらないことが分かります。

国が今、業界全体に強く求めているのは、健康保険の扱いを「正しく(適正化)」、安定した医療制度に則って運営することです。
そして何より、私たち施術者側が「なぜこの施術が必要なのかを、誰にでも納得がいくようにきちんと説明すること」が求められています。

本記事では、お役所の難しい資料を現場の目線で分かりやすく噛み砕き、明日からの院経営にどう影響するのか、具体的な資料の根拠とともに解説いたします。

本記事の目次

1. すべてはここから始まった:令和6年度改定の「おさらい」

令和8年度の新しい改定を理解するには、まず直近である令和6年度(2024年)の改定内容を頭に入れておく必要があります。なぜなら、国の姿勢は当時から一ミリもブレていないからです。

【振り返り】令和6年度料金改定の重要ポイント

  • レセコン導入院は明細書発行が必須に: 「スタッフが3人以上」という昔の従業員数ベースの基準が取り払われ、「明細書を印刷できるレセコンを置いている院」は原則すべて、患者様へ明細書を無料で渡すことが決まりました。
  • 長引く・何回も通う施術は料金が半分に: 初検から5か月を超え、さらに月に10回以上通う患者様の場合、後療料や温罨法料、電療料の点数が「本来の50%(半分)」に大きく下がってしまう仕組みが新設されました。
  • 不自然な長期・頻回通院は「窓口で保険が使えなくなる」ことも: 上記の「5か月超・月10回以上」の患者様で、なかなか改善が見られないなど特別な確認が必要と判断された場合、窓口での受領委任を中止し、一旦全額を支払わせる「償還払い(10割負担)」に切り替えることができるルールが追加されました。
  • 現場のやり繰りへの配慮: 電気代の高騰やスタッフの賃上げ、オンライン資格確認をはじめとする医療DXへの対応として、初検料や電療料の引き上げも同時に行われました。

2. 令和8年度改定の焦点:現場が絶対に知っておくべき4つのポイント

令和6年度の改定時に「これからも続けて話し合う」と残された課題をもとに、令和8年度に向けてさらに一歩踏み込んだ仕組み(案)が話し合われています。

① 保険者が最も目を光らせる「部位転がし」の取り締まり対策

今回の話し合いの中で、健保組合などの保険者側から最も厳しい意見が出ているのが、いわゆる「部位転がし」への対策です。

※接骨院の現場で言われる「部位転がし」とは?

本当は同じ痛みの原因が続いているだけなのに、通う期間が長くなって料金が下がってしまう(5か月超の減額ルールなど)のを逃れるために、請求する負傷の場所を次々に変え、あたかも新しいケガが次々と起きたかのように見せかけて高い点数を請求し続ける行為のことです。

厚生労働省は現在、保険者等の業務や審査実態を踏まえた調査を進めており、まずは「何をもって部位転がしとするか」の明確な定義をはっきり決める方針を打ち出しています。これからは部位の変更に対して、「なぜそのケガが起きたのか」「前の負傷と関係はあるのか」という、誰が聞いても筋の通った説明とカルテへの細かい記録がこれまで以上に厳しくチェックされることになります。

② 明細書へ「負傷名」の記載を義務付けるかどうかの議論

厚労省の最新データによると、国のアンケートに答えた施術所のうち、なんと95.4%がすでに明細書を出せるレセコンを導入していることが分かりました。これを受けて、国は明細書のルールをさらに変更・充実させようとしています。
その中で議論されているのが、「領収明細書に、患者様の『負傷名(ケガの名前)』も書き込ませるべきではないか」という案です。現在、患者様に渡す明細書には金額の内訳や算定項目しか書かれていませんが、ここにケガの名前が入るとなると、患者様自身が「自分がどの負傷でかかっているか」をリアルタイムに把握できるようになります。これは他医療機関との二重請求を防ぐきっかけになる一方、院側が嘘偽りのないレセプトを作り、患者様にしっかり伝える姿勢がダイレクトに問われる時代が来ようとしています。

③ 「償還払い(窓口10割負担)」への変更手続きの厳格化

患者様が窓口で3割(または1〜2割)を支払えば済む「受領委任」の仕組みは、接骨院の経営を支える命綱です。しかし、正当な理由なく「5か月超・月10回以上」の長引く通院を続けている患者様に対して、保険者側は段階を踏んで受領委任をストップさせる動きを強めています。
具体的には、まず院と患者様の双方に「注意喚起のレター(注意喚起通知)」が届きます。それでも様子が変わらない場合、保険者は書類を送るだけでなく、電話をかけたり直接会ったりして患者様に事実の確認(面接確認・説明要請)を行います 。その上で、最終的に「償還払いへの変更通知」が届いてしまうと、その患者様は窓口で一旦10割を全額自分で負担しなければならなくなります。患者様を不安にさせないためにも、日頃から「なぜ通う必要があるのか」を優しく説明しておくことが大切です。

④ 病院側の改定(プラス3.09%)の柔整への影響度

良いニュースとしては、令和8年度の病院やクリニック側の診療報酬改定において、プラス3.09%(2年度平均)の引き上げが決まったことです。
これには医療従事者の賃上げ分や物価高への対応分、食費や光熱水費の基準引上げが含まれています。
昔からの改定率一覧データを見ても、柔整療養費の改定率は病院(医科)側の改定率とおおむね連動する形で配分される傾向にあります。今回も院のやり取りを調べた実態調査をもとに料金項目の引き上げが話し合われていますが、これはあくまで「ルールをしっかり守って、正しい請求を行っている院」に恩恵が行くためのものであることを忘れてはなりません。

3. データが物語る厳しい現実:捻挫・打撲が「99%」という事実

厚労省の会議資料では、私たち柔道整復師が目を背けてはならない「厳しい数字」がはっきりと示されています。行政や保険者がなぜここまでチェックを厳しくするのか、その理由はデータを見ればよく分かります。

  • 接骨院の数は完全に飽和状態: 全国の登録施術所の数は50,924か所に達していますが、その伸び率は0.0%となり、完全に頭打ちとなっています。
  • ケガの名前の不自然な偏り: 実際の請求申請書を抜き出して調べた抽出調査データによると、傷病名の内訳は「捻挫が64.02%」「打撲(挫傷含む)が35.84%」であり、この2つだけで全体の99.86%を占めています。本来の生業であるはずの骨折(0.11%)や脱臼(0.02%)は、ほとんど見かけないレベルの割合です。
  • メインの患者層は70代: 受療者の年齢割合を分析したデータでは、70〜79歳の割合が19.3%と最も高く、高齢層の通院が中心となっています。

これらの数字を見て、保険者側は「高齢者が、歳による慢性的な肩こりや腰痛で接骨院に通っているのを、捻挫や打撲に名前をすり替えて保険請求(部位転がし)しているのではないか」という厳しい疑いを持っているのです。この問題に対して業界全体で真面目に向き合っていかない限り、チェックの手が緩むことはありません。

4. まとめ:これからの時代、生き残る接骨院の条件とは

私たち柔道整復師は、単なるリラクゼーションやマッサージ業ではありません。古くから日本の地域医療を陰で支えてきた、歴史と誇りある伝統医学の担い手です。目先の利益のためにルールの穴を突くような請求を続けることは、業界全体の信用を落とし、将来的に健康保険の適用そのものを失うことにつながりかねません。

令和8年度の改定を乗り越え、これから先も地域に愛される院であり続けるために、当協会は会員の皆様に次の3つの徹底をお願いしたいと思います。

  1. 「誰に見られても恥ずかしくない」カルテ・請求書の作成: ケガをした原因、明確な日付、毎回の施術の様子、どのくらい良くなったかを、第三者が見ても納得できるように正しく記録する。
  2. 患者様への丁寧な説明と、なんとなく通わせることの防止: 「いつまでに、どう治すか」の見通しをはじめに伝え、意味のないダラダラとした長期通院をさせない適切な指導を行う。
  3. 保険の施術と、自費の施術の完全な切り分け: 保険が使える範囲(急性のケガ)と、使えない範囲(慢性的な疲れ、骨盤矯正など)の境界線をクリーンに引き、正々堂々と自費メニューを展開する健全な経営に舵を切る。

制度が厳しくなるということは、裏を返せば「真面目に、誠実に、高い技術を持って運営している院が正当に評価され、いい加減な院が淘汰されるチャンス」でもあります。

一般社団法人 日本柔整鍼灸協会(JBA)は、正しい志を持って患者様に向き合う会員の皆様が不利益を被ることのないよう、今後も分かりやすい最新情報の発信と、健全な院運営のためのサポートを全力で行ってまいります。誇り高き柔道整復師としての気持ちを胸に、みんなに信頼されるクリーンな接骨院業界を共に創っていきましょう。

【厚生労働省 公式検討会資料(PDF)】

本記事の解説は、以下の厚生労働省の公式発表資料に基づいて作成されています。より詳しいデータや原文を確認されたい方は、下記リンクよりご覧ください。

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